2025.02.19
「認知症で道に迷うので出かけさせない」は症状を悪化させる?
2025.02.19
認知症の疑いによる行方不明者が2023年に延べ1万9,039人となったニュースを目にしました。認知症になったら外に出さないように見守らなければ、と考えるのは当然かもしれません。ただ、道に迷うからと言って外出を止めてしまうと、さらに症状を悪化させてしまうリスクがあります。
増加の一途を辿る行方不明者の数を減らすために家族ができることとして、以前紹介した事例と望ましい対応を改めて振り返ります。
●徘徊する︎母親を見守らなければ!
Aさんは父親を介護する母親に認知症のような症状が見られることが気になっていました。しばらくして父親が亡くなり、母親を呼び寄せて同居する決断をします。
母親はAさんに父親が亡くなったことを忘れているような質問をしてきます。Aさんが「お父さんは亡くなったでしょ?」と伝えると「そうだったわね」と納得するも、すぐに「お父さんはどこに出かけたの?」と、同じ質問を繰り返します。初めは穏やかに返答ができていたAさんも、何度も繰り返される母親の質問に対してきつい言葉をぶつけることが増えてきました。
ある日の深夜2時、「お母さんを保護したので迎えに来て下さい」と警察から電話がありました。母親は、以前まで住んでいた自分の家に帰ろうとして、道に迷っていたところを保護されたのです。同じことが起きないようにその日からAさんは母親の横で眠るようにしました。
その後も母親は夜中に「家に帰らないといけない」と出ていこうとします。それを止めるAさんに母親は「なんで私を閉じ込めようとするの!」と怒るので、つい感情的になり、お互い怒鳴り合いになることもありました。
精神的にも追い込められたAさんは、会社を休むことが増えました。さらに同居する家族も睡眠不足と疲労で崩壊寸前の状態となってしまいました。
●問題は外出ではなく「迷って帰れない」にある
認知症の症状に「短期記憶障害」というものがあります。Aさんの母親はその症状により、夜中目が覚めた時に「娘の家にいる」ということを忘れて混乱し、安心のできる場所である自宅へ帰らなければと考えます。Aさんから見ると理解不能に思える行動も、母親にとっては明確な理由がちゃんとあるのです。
そして、「出来事は忘れても、感情と紐づく記憶は残る」という特性によって、母親は「自分の希望を聞き入れてもらえない」というマイナスの感情は覚えているため、外出を止められたことに対しての衝動が強く出てしまうのです。一方で家族としては、夜中に出ていかれることや警察のお世話になることは避けたいので、Aさんのように終始母親を見守るような対応になってしまいます。
●認知症の人の徘徊に対する望ましい対応
Aさんのケースは母親がひとりで自宅に住むという選択も可能でした。母親にとって長年住み慣れた土地や自宅は、どこに何があるかわかる安心できる場所なのです。認知症での徘徊で課題となるのは「迷って帰れない」ことです。ひとりで外出しても、歩き慣れた場所で迷うことはほとんどありません。ただ、目印にしていた看板やお店の閉店、工事中で通行止になり回り道をしたことが原因で道に迷うことがあります。ひとりの外出に不安があれば、GPSを身につけてもらうことや、認知症高齢者の地域ネットワークに事前に登録しておくということもできます。自治体により内容や条件が異なる場合もありますが、サービス費用の補助が受けられることもあります。
もちろん認知症の親をひとりにすることに不安を感じる気持ちは誰にだってあります。ただ、歩いて身体を動かすということは適度な運動にもなります。日中しっかり歩いていれば、夜の睡眠の質も上がります。買い物をする事で、お店の人とのコミュニケーションを取ることにもなります。家の中にいるより多くの刺激を受けることができます。そういった何気ないことは、全て認知症の進行を緩やかにすることにも繋がっていきます。つまり、出かけないように見守ることは解決策にはならないということを覚えておいてください。