2025.01.22

育児介護休業法改正から考える仕事と介護の両立

2025.01.22

育児介護休業法改正から考える仕事と介護の両立

 2024年5月末に育児介護休業法の改正案が衆議院本会議で可決され、2025年4月より順次施行されていきます。今回はその解説と、改めて仕事と介護の両立についてお伝えできればと思います。
 今回の改正で仕事と介護の両立に関係するのは主に下記の4点です。
① 労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た時に、両立支援制度等について個別の周知・意向確認を行うことを事業主に義務付ける。
② 労働者等への両立支援制度等に関する早期の情報提供や、雇用環境の整備(労働者への研修等)を事業主に義務付ける。
③ 介護休暇について、勤続6月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止する。
④ 家族を介護する労働者に関し事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、テレワークを追加する。

事業主によるプッシュ型の事前周知の必要性
①のように家族介護に直面した従業者に対してのサポートだけでなく、②の直面する前の従業者に事前周知や雇用環境整備をすることを義務化されたことが、今回の改正の注目するべき点だと考えています。
事業主への提言として、家族介護は直面するまでは当事者意識を持つことが困難で、情報収集や心構えができないままに突入しがちです。結果、家族で介護を抱え込んで介護離職を選択せざるを得ない状況に陥ります。そこで、公的介護保険の保険料が給与から天引きされる40歳になったタイミングでの事前周知などで、仕事と介護の両立につながる可能性が高くなると考えられています。
私は複数の企業にて、定期的に介護セミナーや個別の介護相談を行う契約をしています。そのうちの1つの企業に勤めるAさんは、介護セミナーで「親が元気なうちから介護相談をしましょう」という話を聞いて、「まだ親は元気だけれど、後期高齢者の老親二人で生活をしていて、何かあったときにどうしたらいいか」と個別相談にやってきました。私はこれから起こり得るリスクの解説し、今からできる準備として、地域包括支援センターとのつながり方についてアドバイスしました。
半年後、Aさんの父親が脳梗塞で救急搬送されるも、地域包括支援センターとの事前連携していたことにより、母親の動揺や父親の病状に振り回されることなく、適切なリハビリと退院後のサポートを受けることができました。父親は要介護2の認定を受けて介護保険のサービスを利用し、母親の負担を軽減できたことで老親二人での生活を再開できました。
Aさんに事前周知がなかったら、母親が動揺して医師やソーシャルワーカーの説明が理解できないままに、「お父さんがかわいそう」とリハビリを拒み、介護保険サービスの調整もされず、一人で介護を抱え込んでいたかもしれません。こうなると、Aさんも母親を助けるために頻繁に帰省することになり、仕事を休まざるを得なくなったことでしょう。

テレワークが「努力義務」となった理由
⑤ の家族介護へのテレワークの活用ですが、従業者が選択できるよう義務化するのではなく、あえて努力義務となりました。一時的であればテレワークが有効な場面もあります。一方で、テレワークをしながらの介護が常態化すると、仕事か介護かで縛られることになり、過度な負担になる可能性があります。
「家族がいるから、デイサービスに行かない」と、テレワークが介護サービスを拒否する原因となったケースもありました。コロナ禍でのテレワークで、親を見守りながら仕事をしてきた結果、出勤要請があっても親の様子が心配で家を離れられないというケースもありました。親の介護にテレワークを活用する際は、本当に両立につながるのか慎重に判断していく必要があると考えています。

介護休暇・休業の拡充のリスク
 今回の法改正では、5日間の介護休暇や93日間の介護休業の延伸などによる拡充も議論されていましたが見送る結果となりました。これらの制度は、あくまでも介護体制作りのために活用するものとしていますが、結果として直接介護に使われているケースが少なくありません。
「母親を介護していた姉が倒れて、自分が介護するので休職か一旦は退職したい」という状況の時に、「まずは制度を使って両立して欲しい」と引き止めても、親の老いていく姿を目の当たりにすれば「仕事より親の面倒を看るべき」というマインドになり、離職を決意する機会となってしまうこともあります。
一方で、事前周知で「姉の現状を愚痴聞きで把握しながら、ケアマネジャーへ情報発信し、姉が倒れた時の体制作りを準備しておく」などのアドバイスを受けていれば、いざという時も焦らずに、体制作りの手続きをするための休暇と取ることができます。介護関係者と書類の郵送や電話のやり取りを活用することで、休まずに体制作りに至ったケースもあります。こういった事例からも、現時点では休暇休業の拡充よりも、事前周知が有効ではないかと考えています。