2025.01.08

将来の介護のために親と同居する際の注意点

2025.01.08

将来の介護のために親と同居する際の注意点

 年末年始の帰省で親の老いを感じ、「同居」の文字が頭をよぎった方もいるかもしれません。親から将来の同居の提案や、経済的な理由も含め両親のどちらかが1人になった場合には一緒に暮らすことを考えるかもしれません。今回は「将来の介護のために親と同居をすること」について事例をもとに、注意点をお伝えします。

●一人暮らしとなった父親との同居
 Aさんの両親は70代半ばで、遠方に住んでいました。母親が急逝し、父親は炊事や家事に苦労していました。Aさんは、実家を引き払い同居を提案すると、父親も娘や孫と暮らせることを喜びました。同居を始めたばかりの頃はお互いに良好な関係でしたが、徐々に父親の元気が無くなっていったのです。
父親は人付き合いには消極的で、慣れ親しんだ土地を離れてからは家に閉じこもるようになりました。言動もネガティブになり、食欲も落ちている様子に、Aさんは病院で診てもらうことをすすめますが、父親は応じません。
散歩に誘ったり、好きだったクロスワードパズルを勧めるなどAさんなりに父親を励ますも、効果はなく父親の状態は悪化するばかり。それでも頑なに病院へ行かない父親は、食事を食べたことを忘れたり、財布や眼鏡などの探し物が頻繁になっていきました。不安を感じたAさんは父親の側にいてサポートをする必要があると判断して、仕事をテレワークに切り替えました。
仕事や子育てに加えて父親のサポートもしなければならない状態に、Aさんは疲弊し、介護サービスの利用も提案するも、父親は受け入れてくれません。疲労とストレスが蓄積して、父親との喧嘩も増えてきました。父親のために頑張っているのに、どんどん関係性が悪化し、日を追うごとに父親が無気力になっていきます。父親をどうサポートしたらいいのか分からなくなり、Aさんは肉体的にも精神的にも負担を感じるようになってしまいました。
 
●同居しても安心には繋がらない
 Aさんのように、遠方で一人暮らしをする親が日々生活をすることに不安や異変を感じたら、家族として近くにいて何とかしてあげたいと考えるのは当然のことです。
それでも「将来親に介護が必要になるだろうから、面倒をみるために同居をしよう」といった“介護を理由とした同居”はお勧めできません。家族が親の介護に関わるつもりで同居をすると、Aさんのように関係性を悪くする要因になるからです。
Aさんの父親のように「無気力」となってしまうのは、Aさんのサポート体制に原因があります。良かれと思った先回りのサポートが、父親がまだできることを奪ってしまったり、無意識に父親の尊厳をないがしろにしている場合があります。
このような状態が続けば、父親は自分で考えたり、決めることを放棄するようになります。近くにいて見守られるから「何かあった時に安心」と同居を決めても、安心が手に入らないどころか、一番大切にしたい「良好な親子関係」を損なうことになり兼ねないのです。

●支える側の心持ち
 同居せずに「親に何かあった時にどうすればいいのか?」と不安を感じる方もいるかもしれません。今は医療が進み、何かあった場合でも命をつなぎ止められるケースも増えてきました。ただそこで考えていただきたいのが“何かあったときに気づくことが親の幸せにつながるのか”ということです。
「ピンピンコロリ」という言葉は、「亡くなる直前まで、病気に苦しむことなく、元気に長生きをして、最後は寝たきりにならずコロリと死ぬ」という健康的な死に方を意味しています。たとえ体のあちこちが痛んだり、歩くのに杖が必要になっても、自分の足で歩き、食事を食べ、毎日を過ごす中、ある日コロリと亡くなることは理想的とも考えられています。子どもの立場では、親には長生きをしていてほしいと願うものですが、それでも「親自身の幸せとはなにか」を考えることが必要なのではないでしょうか。