2024.12.18
年末年始にお勧めの映画
2024.12.18
年末年始などのお休みの際におすすめの映画をご紹介します。アンソニー・ホプキンスが2度目のアカデミー主演男優賞を受賞した「ファーザー」という映画です。アンソニー・ホプキンスが認知症の父親役を演じた2021年の映画で、Amazonプライム、Netflix、U-NEXTなど様々な有料配信サイトで手軽に視聴することができます。
●認知症当事者から見た家族とのコミュニケーション
認知症の方向けデイサービスで働いた経験や、現在は介護相談をするなかで、認知症にまつわるご家族の悩みを伺うことが多々あります。映画「ファーザー」では、認知症の当事者の視点でリアルに描かれていることにかなり驚きました。前半は「どうしてここまで、認知症の当事者目線で描けるのだろうか」と疑問を持ちながら見ていたのですが、気づけば父のアンソニーの中に起きる不安に共感して「誰かこの不安を取り除いてくれ!」と願っていました。
アンソニーは「自分はまだ大丈夫なはずだ」とうまく取り繕って不安を抑えていますが、自身の中に起きる様々な変化、周囲の指摘や叱責から、取り繕いだけではどうにもならなくなります。自分が主張する正しさに共感してくれる人がいない中で、自身の発言や行動そのものに不安を感じるようになり、心許せる家族にも認めてもらえなくなっていきます。不安な感情が積もり積もって、やがて怒りに変わっていく。自身も老いて認知機能が低下したら、アンソニーのように同じような発言や行動を繰り返すだろうと、共感せずにはいられませんでした。
●介護現場ではトライアンドエラーの繰り返し
介護セミナーでもよくお話しするのですが、私が認知症の高齢者の方と笑顔で自然にコミュニケーションが取れるようになるまで、おおよそ3年ほどかかりました。専門職にはそれぞれに関わり方のスタイルがあります。私の場合は歌謡曲や映画俳優などの知識を事前に入れて、共通の話題からきっかけを作っていました。いつもの高峰秀子さんの話題から、笠置シズ子さんに話を変えていくことで、普段は聞けない思い出話から「懐かしいわね」とおっしゃる方もいれば、うまく思い出せないことでストレスを感じて怒ってしまう方もいらっしゃいました。
また、詰め込み学習で得た知識を使いたくなる気持ちをぐっと抑えて、知識はきっかけづくりにだけ使い、あくまでも「教えていただく姿勢」を崩さず話し続けると「あなたはそんなことも知らないの。しょうがないわね」と饒舌になっていく方が多かったのです。
1対1でコミュニケーションするのもトライアンドエラーの繰り返しでしたが、複数の方が参加するレクリエーションで利用者さんのアテンションを引き出し続けるのは本当に難しく、午前中だけでヘトヘトになってしまうこともありました。それでも、利用者さんが私の拙い冗談話を笑顔で聞いて、本気でヤジを飛ばしてくれるのが嬉しくて、何とか日々のケアに向き合っていました。
●家族が老いていく姿と距離を取る大切さ
改めて思い返しても、認知症の方とのコミュニケーションは“他人だからできる”ことなのです。家族であれば、元気だったときの姿を知っているがゆえに、できなくなっていく姿を直視するのは辛すぎて、どうしても正しい現実に軌道修正したくなってしまいます。
映画「ファーザー」の中でも娘が父を懸命に説得する場面が度々出てきますが、なかなかうまくいきません。私も自身の父母が相手だったら、イライラしながら同じように説得をして、つい声が大きくなってしまうでしょう。
知識・経験・技術だけでなく、感情に振り回されない冷静さが伴わなければ認知症の方との対話は成り立ちません。帰省などで家族が揃う機会となる年末年始などに、この映画から、老いていく家族との距離の取り方を改めて考える機会にしていただきたいと思います。