2024.12.04

高齢な親だけではない、家族の様々なケアについて

2024.12.04

高齢な親だけではない、家族の様々なケアについて

 年間約700件の家族介護の相談を受けていますが、私に相談をするまで誰にも悩みを打ち明けられなかったと話される方が多くいらっしゃいます。「他人に迷惑をかけない」「家庭の問題は家庭で解決する」といった日本の風習が今も根強く残るなかで、家族の介護を職場やまわりにオープンに話せる人というのはまだ少ないのかもしれません。今回は、高齢の親の介護に関わらず、家族に起きる様々な家族のケアについてお伝えします。

●事例1:統合失調症と診断された40代母親
 Aさんの母親は、積極的に人と関わるような人ではありませんでしたが、ある時からご近所さんへの愚痴が増え、それが被害妄想だと思われるような発言が増えてきました。
母親の言動が心配になり、病院へ連れて行くと統合失調症と診断されました。父親は50代で仕事中心の生活、Aさんも就職したばかりで、家のことはほぼ母親が担ってきました。この先、不安定な母親をひとり家に残していいのか、どう接したらいいのか、父親とAさんは困り果ててしまいました。
※統合失調症は、思春期から30代にかけて発病することが多いですが、女性は40代を過ぎて発覚することも少なくありません。

●事例2:配偶者が若年性認知症になる
 Bさんは、夫婦共働きで小学生の子どもと3人暮らしです。ある時から、妻が職場での不満を口にして、周りの人に冷たくされていると感じることがあると言います。
ほかにも妻は物忘れが増えたり、穏やかな性格だったのに人が変わったように怒りだすことがありました。心配になり病院へ連れて行くと若年性認知症と診断されました。
妻が職場で迷惑を掛けている原因がわかっても、妻の会社に正直に話すべきかを悩みました。Bさん自身も忙しい日々のなかで、職場への対応、今後の妻のケアや育児など、先が見えず頭が真っ白になってしまいました。

●事例3:息子が就職後に発達障害があるとわかる
 Cさんの20代の息子は、大手企業へ就職したばかりでした。学生時代は成績優秀で、性格は多少こだわりの強いところがありましたが、特に気に留めていませんでした。
研修が始まると、疲れて帰ってくるようになり日を追うごとに気力がなくなり、ついに出社できなくなってしまいました。悩む息子を心配してCさんが診察を受けさせると自閉スペクトラム症(ASD)だとわかりました。やっと子育てが終わったと安心していた矢先、息子に発達障害があると知ったCさんは大変なショックを受けてしまいました。
※自閉スペクトラム症(ASD)とは、発達障害のひとつでコミュニケーション能力や社会性に障害があり、対人関係が苦手という特徴があります。子どもの頃は保護者や周囲のサポートで乗り越えられてきたことも、成人をしたあとサポートがなくなってから気づくケースがあります。

 3つの事例をあげましたが、他にも、元気に暮らしていた母親が交通事故で高次脳機能障害(※)になった方や、50代の父親が末期ガンと宣告された方もいらっしゃいました。
このようなことは誰にでも起こりうる出来事なのです。仕事の繁忙期・家族の介護やケア・育児、その全てが同時期に起きることもあります。渦中にいるときは、他に同じような悩みを抱える人はいないだろうと孤独に感じ、辛さや悩みを抱え込み、自分ばかりなんで不幸なことが起こるのだろうと感じてしまうかもしれません。

 それでも全てのケースに合った支援や解決策があります。家族を支える側こそ投げやりになったり、思考停止にならないためにも、悩みを言葉にすると不安な気持ちを軽くすることができ、客観的に物事を考える手助けとなります。一人で抱え込むことなく、まずは話をしやすい周囲の方に、一言を発することから始めてみてください。

※高次脳機能障害とは、脳卒中などの病気や交通事故などで脳の一部を破損したために、思考・記憶・行為・言動・注意などの脳機能の一部に障害が起きた状態を言います。外見からは分かりにくい障害であるために、周りの人から十分に理解を得ることが難しく誤解されてしまうことがあります。