2024.11.06
火事を防ぐために高齢の親から料理を取り上げるリスク
2024.11.06
食べることは生活の楽しみのひとつですが、食事作りは時として面倒に感じることもあります。高齢になると様々な変化から、食事そのものを楽しめなくなることがあります。ただ、シニア世代の自炊率は約8割と高く、高齢者にとっての料理とは、生活の中で繰り返されてきた馴染みのある生活習慣のひとつなのです。
一方で家族にとっては、火事の心配などから料理をやめてほしいと考える方もいるかもしれません。今回は「火事を防ぐために高齢の親から料理を取り上げるリスク」について解説させていただきます。
●考え始めると心配は尽きない
高齢の親が「料理を作ることそのものが心配」だという相談は少なくありません。一人暮らであれば、その気持ちは尚更強くなると思います。
火にかけたことを忘れてやかんや鍋を焦がしたなどと聞くと、火事でも起こしたらと心配になります。注意喚起をしても繰り返すので、ガスの元栓を閉めて火が使えないようにした方もいました。予防として、お湯は電気ポットで沸かしたり、安全のためIHコンロに換えるといった対策もできますが、必ずしも上手くいくとは限りません。使用方法がわからず放置されていたり、間違った使い方をして怪我や火事を起こす可能性もあります。
●料理をすること生きがいにつながる大切な役割
料理することは、献立を考え、身仕度を整え、店に足を運び買い物をして、時には店員とコミュニケーションを取るなどの行動が含まれます。そして、料理は完成品が目に見えるし、食べるといった楽しみもあります。一見何気ないことのように思えますが、高齢者にとっては、認知症や介護予防のための適度な運動にも繋がり、社会活動を継続させ、自立した生活継続する上で重要な役割にもなっているのです。
近年、福祉、医療、看護の現場でも注目されているQOL(Quality of life)という言葉があります。「人生の質」「生活の質」と訳されますが、私たちが生きる上での満足度を表す指標のひとつとなっています。「その人が自分らしく納得のいく生活を送ること」が、充実感や幸福感に繋がっていくと考えられています。自分で料理を作り、それを食べることもQOLの維持に効果があると言えるのではないでしょうか。
●環境改善による安全対策をはかる
QOLの低下を防ぎたくても、火の元が心配という方には、現在使用しているガスコンロと同じメーカーで安全装置がついているものに換えることをお勧めします。シニア向けガスコンロには、加熱や消し忘れ防止を目的とした自動消火機能などが搭載され、火傷や火事のリスクを大幅に減らすことができます。台所に火煙探知機の設置も有効です。そのほか、家電などを買い換える場合には、両親の使い慣れたものと同じ使用感のものを選ぶことが大切です。
親が長年使い慣れた二層式の洗濯機を最新型のドラム式に買い換えたら、使い方がわからず何度も電話がかかってきたり、ドラムにお風呂のお湯を汲み入れていたといったケースもあります。使い慣れた家電が壊れても、最新モデルではなく、長年使い続けて慣れ親しんだものの後継機に買い換えることが重要です。
親が自ら料理を作り続けているうちは、「環境改善での安全対策」のみをサポートすることが家族としてできることだと考えています。料理が上手に作れなくなってきたら、ホームヘルパーの手を借りることもできます。ヘルパーさんが見守りながら、一緒に料理を作ることで、生活のルーティンを奪うことなく継続できるのです。
仮に失敗したとしても、取り上げてしまうのではなく、温かく見守ることができる距離感で接していただきたいと思います。