2024.07.31
最新テクノロジーでスマートな介護を実現?
2024.07.31
介護業界の人手不足が深刻化するなか、厚生労働省や経済産業省はロボット技術を介護分野で利用する開発と導入を進めています。大手企業やベンチャー企業でも、さまざまな開発が行われています。今回は「介護と最新テクノロジー」について、どのような目的で開発され実用されているのかお伝えします。
●見守りロボット
2000年代から、「サービスロボット」と呼ばれる「産業用ロボット」以外のロボットが数多く登場してきました。そこには「介護ロボット」も含まれ、介護をする人と介護をされる人を支援する目的で使われています。
ソニーグループが開発中の見守りロボット「HANAMOFLOR(ハナモフロル)」は、介護施設で多忙な職員の代わりに、入居者とコミュニケーションを図り、見守る機能を備えています。可愛らしい人型ロボットで歌を歌ったり、「おばあちゃん、おはよう!」と話しかけるなど認知症のケア技術を取り入れた動きが特徴的です。
開発にあたり介護施設で職員の日常を分析すると、職員が入居者のトイレ介助などを行う際、共有スペースで過ごす入居者の見守りが手薄になると気づきました。入居者の中には、職員の姿が見えなくなると不安になり落ち着きを失い、怒り出す方もいたそうです。
そこで、開発担当の袖山慶直さんはフランス発祥の介護技術「ユマニチュード」という手法をヒントに、高齢者を驚かせたり、混乱させないために少しずつ近づいて声をかけたり、視線が合ってから会話を進める動きなどを取り入れたそうです。
「HANAMOFLOR」は簡単な会話のほかに、体温の計測や家族への電話取次ぎなども可能です。今後は、「人口知能(AI)」や「Chat GTP」を搭載して、さらに自然な会話もできるようになるでしょう。現在は実用化に向けて実証実験を続けています。
●排泄介助ロボット
においで排泄を検知する、排泄センサー「Helppad(ヘルプパッド)」。独自のAI技術を用いて、要介護者の排泄を検知・予測する介護ロボットです。
株式会社aba代表取締役CEOの宇井吉美さんは、学生時代に特別養護老人ホームの実習で出会った介護職員が「おむつを開けずに中が見たい」と言ったことが開発のきっかけとなったそうです。排泄は高齢者・障がい者の尊厳や羞恥心に直結するうえ、介護する側の負担も大きく、介護施設では1日に15時間以上もおむつ業務に取られることも。そのうち20〜30%は空振り、おむつの外に漏れてしまった場合は洋服やシーツの交換が必要になります。
「Helppad」を使うことで、介護者は無駄な労力から解放され、高齢者・障がい者の自尊心や羞恥心に配慮したケアが行えます。ベッドの上に敷くシーツタイプで利用者が排泄すると内蔵された「においセンサー」が反応して排泄物を検知し、ナースコールのようにリモートで知らせます。蓄積したデータを集計・分析することで利用者の排泄パターンも把握し、排泄時間の予測も可能にしました。2023年10月には「Helppad2」も発売され、多くの介護現場で利用されています。
●スマートホーム化のすすめ
IoTやAIの技術を活用し、テレビ・照明器具・エアコン・インターフォンなどの家電や住宅の設備をインターネットでつないで一括管理するスマートホームでは、ドアの施錠操作やシャッター・空調のスイッチのオンオフなど、遠隔操作や使用状況を確認することも可能です。
Amazonが提供するデバイス製品「AmazonAlexa(アマゾン・アレクサ)」が掲載されたスマートディスプレイ「Amazon Echo Show(アマゾン・エコー・ショー)」は離れて暮らす家族とのコミュニケーションツールとして活用することもできます。
特徴的なのは声かけだけであらゆる操作ができるので、機械の操作が苦手な高齢者でも活用しやすく、携帯やリモコンなどのボタンの押し間違いを防ぐこともできます。また、実家と自宅に設置すれば、受け手側が操作しなくても通話ができる「呼びかけ」機能を利用して、お互いの顔を見ながら会話ができます。カレンダー機能やリマインド機能を使えば、「デイケアやリハビリ」「薬」の時間を繰り返し伝えてもらえます。
「認知症の親に同じことを聞かれてイライラする」というようなことも、機械に任せれば回避できることもあります。離れて暮らす高齢の親の暮らしを安心して見守る手助けとして、幅広い活用が期待できると思います。
●テクノロジーをどう使うか
テクノロジーの進化により、介護を助ける便利なものがこれからも増えていくでしょう。ただ、便利なことが必ずしも豊かな生活であるとは言えません。人と人との触れ合いやぬくもりが見落とされる心配も少なからずあります。
スマートホーム化が、親を監視したり、生活を管理するために使われる危険性もあります。見守る側のためだけのツールとしての活用はお勧めできません。メリット・デメリットをよく精査した上で、お互いに便利さを喜べるような、まだ余裕のあるうちから導入していくことをお勧めします。