2024.07.17
介護の人手不足となる事例から私たちができること
2024.07.17
我が国は、少子高齢化による人口減少の影響で、あらゆる業界で人手不足が懸念され、介護業界も危機的状況に向かっています。今回は「私たちがどのような工夫をすることで人手不足解消の手助けとなるのか」ということを事例から詳しくお伝えしたいと思います。
●A子さんの母親の事例
一人暮らしをしている母親の異変を感じたA子さん。きっかけは「健康保険証が見当たらない」との電話からでした。母親に物忘れが増えてきたので、久しぶりに帰省してみると、家の中には出されずに溜まっているゴミ袋で溢れていました。
A子さんが母親にその理由を聞くと、近所の人にゴミ出しの間違いを指摘されてから不安で出せなくなってしまったといいます。それから外出も減り、家に篭るようになったせいか身なりも気にかけなくなったようです。A子さんは母親の変化が心配になり、片道1時間かけて毎週実家へ通うようになりました。
A子さんが帰省し出すと、母親の言動や行動にさらに不安が増すこともありました。時には見つからないお財布を「あんたが取ったんでしょ!」と泥棒呼ばわりされるなど、忙しい中時間を見つけて帰ってきている苦労を踏みにじられる気持ちになったそうです。手に追えないと思ったA子さんは、病院の検査や地域包括支援センターへ相談に一緒に行こうと母親に伝えましたが、「どこも悪くないのになんで行くのか!」と拒否します。その間も母親の物忘れは酷くなり、夜間に徘徊をして警察に保護されたのです。
A子さんは、仕事を実家でのテレワークに切り替えて母親を見守ることにしました。一緒にいる時間が増えると、仕事に支障が出て来ることも多くなりました。一日中母親の探し物に付き合わされたり、ウェブ会議に乱入される日もありました。A子さんもそんな母親に対して怒りをぶつけてしまうことが増え、仕事が思うように進まないストレスも溜まっていきました。母親の徘徊は夜間に起こることもあり、眠れない日々が続き、A子さんは体調不良で倒れ救急車で運ばれることになりました。
急に娘の姿が見えなくなったことで、A子さんの母親はパニックになり、近所の人が地域包括支援センターへ連絡し、緊急対応として急きょショートステイを利用することになりました。いきなり知らない人が訪ねてきて、知らない場所へ連れていかれたことに混乱した母親は、施設での食事やお風呂も全て拒否しました。
●支える側の立場を想像する
A子さんのケースのように緊急対応が必要な場合、地域包括支援センターでは急きょショートステイ先を探すこともあります。そうなると、日常業務は一旦やめてA子さんの母親の安全確保に専念するという業務から残業になり兼ねません。
緊急のショートステイ先はすぐに見つかるものではないので、どれだけ時間がかかるか見通しもつきません。受け入れる施設側も、精神的に不安定になり暴れたり、怒りをぶつけられたり、時には平手打ちをしてくるA子さんの母親に、スタッフがつきっきりで対応しなければなりません。
支える側も、かわるがわるフォローをしながら対応に当たらなければなりません。仕事といえど、精神的にも肉体的にもかなりの負担がかかることは想像できるのではないでしょうか。このようなケースは決して少なくありません。毎日のようにこんな状況が続いたら支える側の労働環境は悪化していくばかりです。
●SOSのタイミング
A子さんが母親のために状況を良くしようと思って考えた行動でしたが、自身が体調を崩し倒れてしまう結果となりました。ただ、この状況は間違いなく防ぐことが出来たのです。
A子さんがSOSを出すベストなタイミングは、久しぶりの帰省でゴミが溜まっている状況を知った時点でした。A子さんが母親の異変を感じた時点での地域包括支援センターに相談に行くべきでした。職員が現状を把握し、ゴミ出しや家の掃除をヘルパーに依頼する、日中はデイサービスに通うことの提案などができたでしょう。
早い段階から外部サービスを利用していれば、母親自身も他人の手を借りることや人の世話になるということに慣れて、施設でパニックになるような事態にはならなかったはずです。
●負担を軽減させるために私達ができる事
介護を支える側に負担をかけないために私たちができることは、今は大きな問題がないからと先送りせず、早い段階から親の住む地域の「地域包括支援センター」への問い合わせや相談をすることです。何も起きていないうちの相談なんて迷惑になるのではと遠慮される方もいらっしゃいますが、それこそが悪循環を招く一因になっていると知っておいていただきたいです。