2024.04.03

【認知症の誤解、その5】道に迷うことが増えたので、出かけないように見守る

2024.04.03

【認知症の誤解、その5】道に迷うことが増えたので、出かけないように見守る

 今回は「認知症の誤解、その5」として「出かけないように見守る」について、事例を交えて対策をお伝えします。

●徘徊する母親を見守らなければ!
 Aさんは父親を介護する母親に認知症のような症状が見られることが気になっていました。しばらくして父親が亡くなり、母親を呼び寄せて同居する決断をします。

母親はAさんに父親が亡くなったことを忘れているような質問をしてきます。Aさんが「お父さんは亡くなったでしょ?」と伝えると「そうだったわね」と納得するも、すぐに「お父さんはどこに出かけたの?」と、同じ質問を繰り返します。初めは穏やかに返答ができていたAさんも、何度も繰り返される母親の質問に対してきつい言葉をぶつけることが増えてきました。

 ある日の深夜2時、「お母さんを保護したので迎えに来て下さい」と警察から電話がありました。母親は、以前まで住んでいた自分の家に帰ろうとして、道に迷っていたところを保護されたのです。同じことが起きないようにその日からAさんは母親の横で眠るようにしました。
その後も母親は夜中に「家に帰らないといけない」と出ていこうとします。それを止めるAさんに母親は「なんで私を閉じ込めようとするの!」と怒るので、つい感情的になり、お互い怒鳴り合いになることもありました。

精神的にも追い込められたAさんは、会社を休むことが増えました。さらに同居する家族も睡眠不足と疲労で崩壊寸前の状態となってしまいました。

●問題は外出ではなく「迷うこと」にある
 認知症の症状に「短期記憶障害」というものがあります。Aさんの母親はその症状により、夜中目が覚めた時に「娘の家にいる」ということを忘れて混乱し、安心のできる場所である自宅へ帰らなければと考えます。Aさんから見ると理解不能に思える行動も、母親にとっては明確な理由がちゃんとあるのです。
そして、「出来事は忘れても、感情と紐づく記憶は残る」という特性によって、母親は「自分の希望を聞き入れてもらえない」というマイナスの感情は覚えているため、外出を止められたことに対しての衝動が強く出てしまうのです。一方で家族としては、夜中に出ていかれることや警察のお世話になることは避けたいので、Aさんのように終始母親を見守るような対応になってしまいます。

Aさんのケースは母親がひとりで自宅に住むという選択も可能でした。母親にとって長年住み慣れた土地や自宅は、どこに何があるかわかる安心できる場所なのです。認知症での徘徊で過大となるのは「迷って帰れない」ことです。ひとりで外出しても、歩き慣れた場所で迷うことはほとんどありません。ただ、目印にしていた看板やお店の閉店、工事中で通行止になり回り道をしたことが原因で道に迷うことがあります。ひとりの外出に不安があれば、GPSを身につけてもらうことや、認知症高齢者の地域ネットワークに事前に登録しておくということもできます。自治体により内容や条件が異なる場合もありますが、サービスの補助が受けられることもあります。

認知症の親をひとりにすることに不安があっても、本人が外出を望んでいるのなら、家族は離れていても見守りのできる環境を整えることに努めてください。歩くことは運動になり、夜の睡眠の質も上がります。買い物は人とのコミュニケーションが必要になり、家の中にいるより多くの刺激を受けることができます。それらは認知症の進行予防にも繋がっていきます。残念ながらどんなに頑張っても、出かけないように見守ることは解決策にはなりません。認知症でも、幸せにひとりで生活されている方は沢山いらっしゃいます。