2024.02.21

【認知症の誤解、その3】デイサービスに送り出すための声がけ

2024.02.21

【認知症の誤解、その3】デイサービスに送り出すための声がけ

 「認知症の誤解、その3」として「デイサービスに送り出すための声がけ」について、私自身の経験も含め、どのような対応や声がけが有効なのかをお伝えしたいと思います。

●懸命に説得してもデイサービスに行きたがらない
 認知症の家族がいる場合、いかに本人がものごとを忘れないかの工夫をされているケースを多々目の当たりにします。

【たとえば、デイサービスに行くことを忘れてしまう場合】
・とにかく繰り返し伝える
・カレンダーに記入しておく
・ホワイトボードに書いて繰り返し見せる
・1週間前から毎日電話をして、デイサービス当日も迎えが来る1時間前に確認する(離れて暮らしている場合)

 認知症は表出する症状に個人差はありますが、多くは、つい先ほどの出来事をすっかり忘れてしまう「短期記憶障害」というものが現れます。脳血管障害やタンパク質の蓄積など脳の障害で発生するもので、直近のものごとのすべてを忘れ、また忘れたことすら自覚がないのが特徴です。昔のことは覚えていても、新しい記憶が定着しません。忘れてしまうのなら、何度も繰り返し説明しようと思うのは普通の感覚ですが、それでも記憶が定着するのは困難です。

アルツハイマー型の場合は、脳内の海馬が萎縮をすることで、扁桃体が比較的優位になります。扁桃体は感情を司っているので、感情に紐づいた記憶は残りやすい特徴があり「言われた内容は覚えていないが、その時に自分がどう感じたか」が残りやすくなります。

 デイサービスの通所は家族に言われて仕方なしにという方も少なくありません。利用する本人の心境も「なにが起きるか分からず不安」という気持ちが強く、家族から説得され、繰り返し言われる日時は記憶に残らないのに、「なんとなく不安」という気持ちだけが積み重なっていきます。とにかく行って欲しいという切迫感も伝わり、さらに不安な感情が強くなります。結果「頑張って説得したからこそ、デイサービスに行きたがらない、迎えの車に乗らない」という事態になってしまうのです。

●説得や声がけは家族がやらなくていい
 認知症の診断があれば「認知症対応型通所介護」という認知症の方に特化したサービスも選択できます。認知症の方に対しての声かけに慣れていたり、手厚い人員配置になっているので、こちらを検討してみてもいいでしょう。

 私も「認知症対応型通所介護」で働いておりました。一軒家のような外観で庭もあり、畑で野菜を育てていました。利用者さんの多くはデイサービスではなく、公民館にボランティアに来ているという感覚で楽しんでいらっしゃいました。

通所を拒む男性には「キャッチボールの相手を探している」とお伝えしてキャッチボールをして過ごしたこともありました。事前に家族から、長年野球を続けてこられたという話を聞いていたからです。 

元編み物先生だった女性には「編み物を教えてくださるボランティアの先生を探している」として、来所してもらいました。全てが上手くいくわけではありませんが、利用する本人が楽しく通所できる工夫をしたお誘いやお声かけに努めておりました。

 家族が良かれとする声かけや説得は、不安だけが残りデイサービス拒否を助長します。それが介護職員の負担を増やす場合もあることもご理解ください。利用する方に場合によっては「デイサービスに行くということを理解させる」必要はありません。
 家族ができる最善策は、ケアマネジャーやデイサービスの職員に、利用される方がどんなお人柄で、どのようなお仕事をされてきて、どんな趣味を持っているのか、また家族としての不安も伝えてお任せすることです。どうしたら利用する本人が楽しく通所できるかを話し合えることが重要です。
初めから上手く行かなくて当たり前と、作戦を立て試行錯誤してことが、利用する本人を含め、介護に関わる全員が穏やかでいられることに繋がっていくのだと思います。