2023.12.20

【認知症の誤解、その1】物忘れはあるが、問題は起きていないのでまだ大丈夫

2023.12.20

【認知症の誤解、その1】物忘れはあるが、問題は起きていないのでまだ大丈夫

2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。企業で介護相談を受けていると、認知症についての誤解があることで、さらに状況を悪化させているケースがほとんどです。そこで、5回に分けて認知症の誤解と正しい対応方法をお伝えします。

●ある日突然、母親が交番に保護されて…
 久しぶりに実家に帰省すると、少し年老いたと感じながらも両親とも元気そうに見えました。両親と食卓を囲むと「孫はもう中学に入ったのかな?」と母が聞いてきました。「もう大学生だよ」と何気ない会話を交わしました。
5分後に「孫はもう中学に入ったのかな?」と聞かれたAさんは「さっきも言ったけど、もう大学生だよ」と返答しました。母は「ああ、そうだったね」と笑っていました。母親が作った味噌汁の味が濃いことも気になりましたが、あまり気に留めませんでした。
 翌日、母親は認知症ではないかと父親に聞いてみるも「年相応だろう。昔からお母さんは忘れっぽいところがあったから」という父の返答に、胸をなでおろすAさん。安心して実家を後にすることにしました。
 1か月後、深夜3時に「〇〇交番ですが、お母さんと思われる方が道に迷われていたので、交番で保護しております」と携帯電話に連絡がありました。一気に眠気が覚め、警察に詳細を確認していきました。
母親が、深夜に一人で歩いているところを発見し話しかけると、何百キロも離れた自身の実家に行きたい、と返答したため交番で保護したというのです。母が持っていた家族の連絡先リストから、父親に連絡しても出ないので、息子のAさんに連絡が来たのです。父親は携帯電話を持たずに探しに出かけていたのです。
父親によると半年前から母親の様子がおかしいとは感じていたが、心配かけないために息子のAさんに相談していなかったとのことでした。
Aさんは、上司に状況を説明して、有給休暇を取得して実家に帰省することにしました。病院で診てもらおうとしても、母親は「どこも悪くない!」と感情的になり連れ出せません。その後も母親は深夜に生まれ故郷へ出かけようとするため、父親もAさんも寝不足の日々が続きました。疲れとストレスから、つい母に強い口調となってしまいます。
Aさんは上司にテレワークができる部署への異動を申し出ることにしました。その後、Aさんは実家からのテレワークができるようになりました。しかし、母親が家から出ていこうとすることが頻発し、とても仕事に集中できる状況ではありません。

●正常性バイアスが早めの相談を妨げてしまう
予期せぬ変化や新しい事象に対して過剰に反応しないよう「正常性バイアス」が働き、年相応の物忘れだろう、今日はたまたま調子が悪かったのだろう、と考えてしまうことがあります。
ただ、せっかく見つけた変化をそのままにしておくと、外部支援を求める適切なタイミングを逃すこともあります。財布やキャッシュカードを無くす、料理が作れなくなる、家の近所で道に迷う、などのトラブルが起きてからでは、その一つひとつの対応に追われているうちに時間と労力が奪われ、仕事との両立が困難になってしまいます。
 こういった場合は、電話でも構わないので、地域の高齢者向けよろず相談所である「地域包括支援センター」に親の変化を伝えておくことが重要です。地域包括支援センターによる普段の見守りから、親との関係性づくりを進めていけば、適切な支援につなげられる可能性はかなり高いでしょう。
例えば、母の趣味である生け花をきっかけに「生け花のボランティアさんを探しています」と声をかけて、デイサービスに誘い出します。物忘れがあり不安が高まっている中で、安心できる場所として生まれ故郷を求めていると仮説を立て、この不安を低減するために、デイサービスで昔話をしながら、職員やほかの利用者さんに生け花を教える、というケアを行います。認知症のケアは、その行動にばかり振り回されるのではなく、原因である不安にアプローチをしないと解決が難しいものです。また、日中の活動量が維持できれば、夜の一人歩きを未然に防ぐことになります。
こういった、仮設と考えられるケアの実施を繰り返していくのが適切な認知症のケアです。試行錯誤を繰り返す余裕を得るためにも、早めの相談が必要不可欠です。