2021.08.04
「これさえやっていれば楽しい」を見つけた方の老後の実例
2021.08.04
「親の介護経験が、自身の老後不安を和らげる」というお話の続きです。
●そもそも「これさえしていれば楽しい」とは?
親や自分の「これさえしていれば楽しい」が「わからない」とおっしゃる方が少なく ありません。そこで、Aさんの事例を通して、どうすれば「これさえしていれば楽しい」を見つけることができるか、また、なぜ見つける必要があるのかをお伝えいたします。
●介護の仕事で出会った「これさえしていれば楽しい」
当時70代のAさんは、輝かしい経歴を持ち、経済的にもいわゆる成功者と言える方でした。そこで、関わった大きなプロジェクトなど、仕事の武勇伝を聞き出そうとコミュニケーションを取ってみるも、言葉が上滑りするばかりで、あまり良い表情が見られませんでした。
ある時、ふと学生時代の話になり「親にせがんでラジオを作るキットを買ってもらったんだ」と、ポロっと語ってくださいました。文系のAさんから、理系色の強いラジオ作りの話が出たのは驚きましたが、経済的理由から志望していた理系の進学をあきらめざるを得なかった、ということが分かりました。そこで、ラジオ作りに一緒に取り組むと、それまで見せたことのない真剣な表情を私たちに見せたのです。この様子にご家族も非常に驚かれていました。
Aさんのように、ご家族に見せてきた一面とは別のところに「これさえしていれば楽しい」が眠っていて、私たちのような第三者の関りがキッカケで、偶然に辿り着くこともあります。
●これまでの体験から棚卸して考える
Aさんとの出会いから、私自身のこれまでの経験を以下のように振り返りました。
・器械体操でケガをして車いす生活、福祉の仕事を目指す
↓
・社会福祉学科で学ぶも福祉の仕事の将来性に不安を持つ
↓
・給与が高い外資系コンサル会社に転職し、不採算事業の人員整理の仕事を任される
↓
・給与が高くても、人も自分も、追い詰める仕事に疑問を持つ
↓
・人や自分も追い詰める仕事でなく「人を支援する仕事をしたい」と介護の現場へ
Aさんに比べれば、まだまだ道半ばだとは思いますが、少なくとも私にとっては、「経済的に成功する」より「人を支援すること」が、自身が自然体で楽しいと思えることだと分かりました。
●試行錯誤するプロセスが重要
社会的地位や経済的成功を得たAさんだからこそ、一見わかりづらい「これさえしていれば楽しい」は、ご家族とともに試行錯誤する必要がありました。改めて、ご家族が生身のAさんと向き合っていく中で、「これさえしていれば楽しい」を探し、自分らしさを取り戻していったAさん。そのプロセスに伴走する中で、老いて出来なくなることが増えていくからこそ、見えてくるものや得られるものがあることを知り、私の老後の不安が薄れていきました。
このような経験から、本当の意味での親孝行とは、親の「これさえしていれば楽しい」を探すプロセスに寄り添い、自身のこれからに活かしていくこと、ではないかと思っております。そのために、周囲のサポートを活用し、試行錯誤できる余裕を持つことが必要不可欠なのです。