『となりのかいごが大切にするもの』

(息子)

川内 潤

NPO法人となりのかいご
代表理事


(父)

川内 美喜男

株式会社ティー・シー・エス
代表取締役

代表川内潤が、実の父であり介護事業を経営する川内美喜男氏との親子対談を通して介護という仕事に対するお互いの考え方、NPO法人となりのかいご立ち上げの想い・ビジョンを再確認しました。

撮影協力 : 神田の寿司「鮨と酒 魚伸」

介護を事業として成り立たせることの大切さ

介護を事業として成り立たせることの大切さ
川内

お父さんと話すことがないもんね、何年振りだろう?
今日は、なぜ僕が福祉とか介護の仕事をしているのか
みたいな話ができたらと思ってて。
大本をたどるとお父さんが布団乾燥の仕事をやらなければ、
きっと僕はやらなかったと思うんだよね、間違いなく。

行政の委託を受けての布団乾燥で、
寝たきりの方、独居の方、それから障害者、月150件。
そうすると「このシーツはいつ交換したんだろう」
「この寝間着はいつ変えてもらったんだろう」
いろんな方がいらっしゃって…
年寄りに対して、先輩たちに対して敬う気持ちが何もないなって。
その時おばあちゃんからもらった100円札とか、
紙に包んでもらった飴玉があって。
この100円札と飴玉は今でも僕の宝物。
そういう環境の中に在宅での介護ってなんだろうなって疑問が思い浮かんだ。

川内

僕がなんでこの仕事を始めたのか、
間違いなくお父さんの話に共通すると思ったのは、
ただ儲かるからやるっていうわけじゃないということ。
自分を突き動かす何かミッションていうか、
お父さんにとっては、そのおばあちゃんたちとの出会いだったりとか、
それを維持するために大事なツールとしてのお金って
大事ものなのかなって今は感じる。

去年うちの会社が創業39年になったけど、
30年続く会社が日本全体で5%もない中ここまで続けてこられたのは、
結局は思想的なもの、思い、誇り、そういうものは絶対に大事なんだけど、
それを維持するには報酬を得ないと200人いる社員に給料払えねぇわけだ。

介護を事業として成り立たせることの大切さ

ここにきて感じているのは、女性が介護してる現場より
男性が介護してる現場の方が事故が多い。
仕事と同じように、自分で介護ができると思って入るもんだから。
お前がやっているのは、
サービスをうまいこと組み込むことができれば
会社を辞めなくていいんだよっていう、そういうコンセプトだろ?
学生の頃にやってた老人ホームの紹介サイトとか、在宅介護の経験とか、
一貫して取り組んでる福祉についての研究材料が
今でも活かされてるっていうのが、あなたすごいよなって。

川内

ありがとうございます!
いやー、そんな風に言ってもらえると思わなかったですね。
お父さんに対して、2代目としての責任とかっていうことはあったんだけど、
でも今こういう風に自分で仕事をしてすごい楽しいし、
社会に貢献するっていうとちょっと大げさなんだけど、
それに向けて少しでも自分が何かできてるっていうことが
すごく嬉しいなって思ってるよ。

接するのはご家族、お客さんは寝ていらっしゃるご高齢の方

接するのはご家族、お客さんは寝ていらっしゃるご高齢の方
川内

息子ではなく、同じ業界の人間として聞きたいんだけど、
ただお金や経営環境だけで判断できない仕事をしているから
すごい難しいなって思っていて、
何を軸に判断すればいんだろうって色々迷うんだけど、
お父さん自身が大事にしていることってなんだろう、経営者として。

潤はどこを向いてる? お客さんて誰だと思う?

川内

僕はやっぱり、接しているのは介護している家族なんだよね。
その介護している家族に接することが多いんだけど、
でも僕はその人だけがお客さんじゃないと思っていて、
やっぱり介護されるご高齢の方が僕のお客さんだと思ってる。
その家族としては寝たきりや認知症を治したいという想いに縛られていて。
でも結局それは、病気を受け止めきれていなくて、
現実を受け止めきれていなくて苦しんでいるのだと思う。
その気持ちもわかるんだけど、家族も本人も救うために、
僕は家族の辛い気持ちに寄り添いながら、
現状を受け止めていくことで、介護されるご高齢の方を救いたい。

それはお父さんも一緒!
そこは変わらないし、これからも変えない。
我々の訪問入浴という在宅介護の現場でも、
寝たきりで介護を受けている老人が『迷惑』だという家族がたまにいる。
この方達のおかげで我々の世代は衣食住が楽になっているのに、
戦争も経験しなくても済んでるのに、
家族に対しての、先輩に対しての、親に対しての、
親孝行の気持ちが持てなくなっている。
それを取り戻すために僕は一生懸命やりたいなと思っている。

川内

だったんだねぇ…
今の話を聞いてさらに思ったのは、
いま自分は、家族による高齢者の虐待の防止を
事業のミッションに置いてるんだけど、
それって一番難易度が高く、アンタッチャブルで、
そんなの手を出したらダメだよっていうテーマなの。
でも今の話を聞いて、自分はやるしかなかったんだなって思った。

父から引き継ぐ想い

父から引き継ぐ想い

いまの高齢者は、年金とかを使いながら生きていることに対して
「悪いよね、俺なんかが長生きしてるおかげで今の若い奴に迷惑かけてる」
ってことをよく言います。
でも「おばあちゃんもそうやって看取ったでしょ?順番だよ」て言うと、
「あぁ、順番かぁ」って言われる方がいらっしゃる。そういう方に対して、一回でも多くお風呂に入っていただきたい今日が最後のお風呂かもしれない今日が最後の介護になるかもしれないと危機感を持って介護ができる人たちを育てることが俺の一番の仕事かもしれない。だから、自分に何ができるかじゃなくて何をしなきゃいけないかって言うのを日頃から考えなきゃいけない。

そういう方に対して、
一回でも多くお風呂に入っていただきたい
今日が最後のお風呂かもしれない
今日が最後の介護になるかもしれない
と危機感を持って介護ができる人たちを育てることが
俺の一番の仕事かもしれない。
だから、自分に何ができるかじゃなくて
何をしなきゃいけないかって言うのを日頃から考えなきゃいけない。

川内

なるほど…
いや、僕は仕事をしていく中で何を大事にすればいいのか
やっぱり見えないところがたくさんあって。
やっぱりさあ、泣きながら親を殴ってる人は止めたい。
親を殴っちゃいけないっていうのは誰もがわかってるけど、
殴らざるにはいられないんだよっていうあの感じは…

俺が昔、介護施設を作ろうとすると、どえらい反対があったの。
要は、老人相手にしてお金を作るって言うとえっらい反対される。
で、それは今はほとんどなくなってきた。
今は逆に、保育園と幼稚園作ろうとすると、どえらい反対される!

川内

そういう話はよく聞くよね。

もっと手が掛けてあげれば、もうちょっと身近に情報があれば、
もうちょっと誰かが手を差し伸べてれば、助かった子供はいっぱい!!

川内

なんかその、自分が今の仕事してる理由もすごくわかった気がするかな。
僕はもう会社を継がなくていいっていうことでいいんすか?

まあ好きにせえや。

川内

ありがとうございます!
いやいやあのね、一番楽なのは何にも考えずに
会社を引き継ぐことだったのかもしれないんだけど、
なんかそれは僕にとっては違ったんだろうな。
お父さんが大切にしてきたその想いを引き継ぐことが、
僕のやるべきことだったんだろうなあ。
いま自分がやってる仕事がどうなっていくのかわからないし、
どう意味を持つのかもまだわからないけど、なんか納得できた気がする。
改めて、今日話をして。

しょうがないわなあ。

川内

何が?(笑)

いや俺、本当は料理人になりたかったの(笑)

川内

うっそだ(笑)

おれさ、65になったら修行に来ていい?

店主

いつでも。皿洗いから(笑)

親子

はっはは!(笑)

父から引き継ぐ想い